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アウターブランディングの取り組みを実例で解説する ヤンマーホールディングスのケース

ブランディング

この記事では、企業のブランディング活動において重要な役割を担う「アウターブランディング」について、具体的な実例をあげながら解説して参ります。

アウターブランディングとは、インナーブランディングの対義となる概念です。ブランディング活動において、企業やブランドの外部に位置する関係者(ステークホルダー)に対して行われる、「すべての活動の総和」と言い換えても良いでしょう。アウターブランディングと似た概念に「エクスターナルブランディング」がありますが、この二つはほぼ同じ意味だと考えて差し支えありません。

※インナーブランディングの解説記事でも、このことに触れています。ご参照ください。
効果的なインナーブランディングを進めるために その意義と手順|RHCブランディングnote (rhcnet.com)

では、企業やブランドの外部関係者(ステークホルダー)に対して行われるアウターブランディングの活動とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

アウターブランディングが担う領域

ブランドの中心には、その存在意義を定義する「理念」が存在します。そしてその理念を実現していくものとしてブランドの「戦略」が策定されます。策定された戦略に従い、企業は現実のビジネスを展開するため「ヒト」「モノ」「コト」「メディア」の要素を組み合わせて、ビジネスモデルを構築するのです。

【関連記事】
企業ブランディング(コーポレートブランディング)とは 事例と進め方をご紹介|RHCブランディングnote (rhcnet.com)

あるべきビジネスの姿を実現するためには、まず社内(インナー/インターナル)での理解と共有が十分に行われていなくてはなりません。そこで、インナーブランディング/インターナルブランディングの活動を実施します。そして実際のビジネスは、お客さまを初めとする外部ステークホルダーに対し、さまざまなタッチポイントを通じてコミュニケートしていくことで成立します。すなわち従業員や商品、店舗・接客、広報・広告媒体といった「ヒト」「コト」「モノ」「メディアを組み合わせ、ビジュアル&ビヘイビアの総和で伝えていくプロセス全般、これがアウターブランディング/エクスターナルブランディングです。

【関連記事】
ステークホルダーとは ステークホルダーエンゲージメントを向上しよう|RHCブランディングnote (rhcnet.com)
ブランディングとは 誰にでもわかる定義とその手順 -効率的・効果的にブランディングを進めるために-|RHCブランディングnote (rhcnet.com)

ヤンマーホールディングス株式会社のアウターブランディング

本当はすごいヤンマーの事業領域
前章の最後にリンクを貼った関連記事のなかで、代表的なコミュニケーションの事例としてヤンマー(ヤンマーホールディングス株式会社)のオウンドメディア「Ymedia」を紹介しました。Ymediaは、2012年のヤンマー創業100周年を契機としてスタートした、同社のリ・ブランディングプロジェクトの一環として始まったものです。

ヤンマーと言えば、ある年齢以上の人々の記憶に強く残っているのが、天気予報でおなじみのキャラクター「ヤン坊・マー坊」でしょう。「小さなものから大きなものまで動かす力だヤンマーディーゼル」というテーマソングと共に、広く人口に膾炙したヤン坊・マー坊のテレビCM効果は絶大なものでした。しかしそれがゆえに、日本やアジアにおけるヤンマーのイメージは、トラクターに象徴される農機具メーカーとしての印象が強くなっていったのです。

実は、CMソングでも歌われているようにヤンマーの製品・サービスは非常に広い領域にわたっています。
下図に示しているのは、ヤンマーのwebサイトマップです。農業だけでなくマリンプレジャー、大型船用エンジン、エネルギー、建設機械、産業エンジン、食・住宅設備機器など広範囲な事業展開を行っていることが、これを見ると一目で分かります。

非常用発電機では国内シェア約40%、漁船用エンジンの国内シェアは約70%を誇っています。また欧米においてはプレジャーボートやクルーザーの市場で船舶用エンジンを提供する、ラグジュアリーメーカーという印象の形成に成功しています。創業100周年を迎えた同社は、次の100年戦略を展開するにあたりこうした国内外のイメージギャップを統合し、高い技術力と安定した業績をベースに、次世代のブランドを形成しようと決意したのです。

ヤンマーのリ・ブランディングプロジェクト

2014年3月、ヤンマーはついに長年愛されてきた「ヤン坊マー坊天気予報」の歴史を閉じました。
豊作の象徴であるトンボの王・オニヤンマに託した社名を持ち、「日本の農家を楽にして差し上げたい」とする創業者の思いを100年の間追求してきた同社が、次の100年に向けてさらに飛躍することを決意したためです。
このリ・ブランディングの取り組みは社内で「ヤンマープレミアムブランドプロジェクト」と呼ばれ、まず核となる理念の策定が行われました。これらは「私たちのパーパス」として掲げられています。

その内容は、
・ブランドステートメント…A SUSTAINABLE FUTURE -テクノロジーで、新しい豊かさへ。-
・ミッションステートメント…わたしたちは 自然と共生し 生命の根幹を担う 食料生産とエネルギー変換の分野で お客様の課題を解決し 未来につながる社会と より豊かな暮らしを実現します。
・4つのビジョン
VISION 01.省エネルギーな暮らしを実現する社会。
VISION 02.安心して仕事・生活ができる社会。
VISION 03.食の恵みを安心して享受できる社会。
VISION 04.ワクワクできる心豊かな体験に満ちた社会。
・創業者の精神
燃料報国
HANASAKA
というものです。

私たちのパーパス|会社概要|ヤンマーについて|ヤンマー (yanmar.com)

ここには、「人と自然の調和」という忘れてはならない大切な思いのこもった理想を、テクノロジーを通じて実現するのだ、とする強い意思が込められているのです。
次にヤンマーは視覚的なシンボルとして、VI(ビジュアル・アイデンティティ)のリニューアルを行いました。FLYING-Yと名付けられた新しいブランドマークの造形はヤンマの羽と飛翔をイメージし、コーポレートカラーの赤と共に「世界最先端の技術力」「開拓者精神」「挑戦」「情熱」「太陽」「豊かさ」を表現します。

同時にプロダクトやウェアのデザインも一新、次の100年をグローバルな市場でリードする先端企業のイメージ形成に大きく貢献しました。 また、それまで顧客以外はコミュニケーションの対象者としてきませんでしたが、ヤンマーはここでも変化を遂げています。2014年9月に竣工した大阪の新本社ビル「YANMAR FLYING-Y BUILDING」は「自然との共生」をコンセプトに掲げて、外壁に壁面緑化が施されました。新本社ビルについてwebサイトでは「2012年の創業100周年を機に新たに策定した、ミッションステートメントの価値観や社会的使命のあり方を、最新のテクノロジーとデザインの力で具現化した、ヤンマーグループの未来の方向性を指し示すコンセプトモデルです。」と説明しています。まさに、同社のグローバルコミュニケーションの発信基地というわけです。

新本社ビル「YANMAR FLYING-Y BUILDING」完成|Y media|ヤンマー

さらに、2023年1月には東京支社の新社屋がオープン、こちらは「YANMAR TOKYO」と名付けられ、稲作に関する無料体験型コンテンツ「ヤンマー米ギャラリー」や農をコンセプトに据えたレストラン、地域名産品を扱う「YANMAR MARCHE TOKYO(ヤンマーマルシェトーキョー)」という店舗を内包し、広く一般にヤンマーの理念を伝達する機能を果たしています。

「ヤン坊マー坊の歌」のヤンマーが、ブランド訴求のために建てた「新社屋」の仕掛け:根底に創業時の理念(1/3 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン

2020年10月にはYANMAR SYNERGY SQUAREが開館。全世界のヤンマーユーザー・ビジネスパートナーとシナジーを共創する場として期待されています。
ヤンマーシナジースクエア (yanmar.com)

RHCブランディングnoteで以前に紹介した「Ymedia」も、スタートした当初は「デジタル版の社外報」といった感覚だった、と担当者は言います。それがアクセス解析や試行錯誤を続けていった結果、現在は閲覧数の増加よりも一人当たりの理解深度、満足度を高めることに注力するようになっているそうです。滋賀県にあるヤンマーミュージアムのリニューアルオープンを取り上げたり、海外版ではドメスティックな内容に傾かないよう独自の記事を配信したり、ステークホルダーを意識したコミュニケーションが図られているのです。

求職者に対するコミュニケーションも、Ymediaがその一翼を担っています。
ヤンマーは、外国人にとって働きやすい会社か? 外国籍社員と採用担当者の本音トーク|Y media|ヤンマー (yanmar.com)

組織としても、ブランドコミュニケーション部デジタルグループから2019年度より広報グループに運営が移管されました。インナーブランディングメディアとして横のつながりを強化すると共に、web社外報としてインナーとアウターをつなぐより強力なメディアとなって、今後も使命を果たしていくことでしょう。
豊かな未来に向けてブランドメッセージを発信ー「Y media」のコンテンツマーケティング戦略 - amanaINSIGHTS(アマナインサイト)

テレビや新聞広告、動画などによるコミュニケーションも理念を体現し、ブランドの表現における一貫性・統一性に十分配慮して制作されるものとなりました。先の「ヤン坊マー坊」が社員の敬意と感謝を集めながら、第一線から退いたのもこの視点によるものと言えるでしょう。
広告宣伝アーカイブス|会社概要|ヤンマーについて|ヤンマー (yanmar.com)

こうして、外部ステークホルダーとの接点、タッチポイントが形作られていきました。その背景には、理念を戦略に変換し、戦略を「ヒト」「モノ」「コト」「メディア」が理解し、形にする過程が存在したのです。

ヤンマーが考えた「100年の礎」を築くためのIT戦略とは?(前編) (nec.com)
ヤンマー流リーダーシップとIT人財の育成方法とは?(後編) (nec.com)

ライタープロフィール

神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長

創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。

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