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ブランドプロミス ステークホルダーとの固い約束

ブランディング

ブランドプロミス(Brand Promise)という言葉があります。
「ブランドの約束」という和訳の通り、あるブランドが「私たちはこのように〇〇をします」と消費者や関係社会に表明すること、およびその文言を表すものです。
ブランディングnoteでこれまでもご紹介してきたように、企業(コーポレートブランド)や商品・サービスのブランドはステートメントやスローガン、スピリット、ミッション・ビジョン・バリューの表明など、様々な形でマインドを表現しています。ブランドプロミスは、これらの要素群とどのように関係するのでしょうか。
この記事ではその疑問に答えるべく、「ブランドプロミスとは何か」について解説してまいります。

ブランドプロミスの実例

「ブランドプロミスとは何か」について考察する前に、理解を進めやすくするため、企業・ブランドが実際に「ブランドプロミス」として表明している実例をいくつかご紹介しましょう。

ツインバード工業株式会社

※同社ニュースリリースより抜粋
11月9日発表_ツインバードリブランディングプレスリリース (twinbird.jp)

2021年11月、ツインバード工業株式会社は創業70周年を機に「ブランドプロミス」を策定しました。リ・ブランディングにあたり、「心にささるものだけを。」という言葉をブランドプロミスとし、ものづくりの技術と精神に基づいた”本質的に価値ある家電”を提供していく態度を強く表明したものです。
リリースの文中を見ると、「未来へ向けてあらためて、私たちは約束します。」という表現がなされていることがわかります。

ソニー生命保険株式会社

※同社ニュースリリースより抜粋
220420_Brandpromise.pdf (sonylife.co.jp)

ソニー生命は2022年4月、コーポレートスローガン「LIFEPRANNER VALUE」を3つの価値として再定義し、「ブランド戦略の核・根幹に据え、企業ビジョン・企業姿勢を示す場面を中心に活用」していく、と発表しました。リリースではこれを「創業時から現在までの変わらない想いをベースに、当社の提供価値やこれからへ向けた決意を表現したもの」と説明しています。
一方、企業サイトの「企業情報」ページを開くと、そこには「お預かりした保険契約は、お客さまとソニー生命との『遠い約束』です」との一文が書かれています。保険会社という性格上、商品自体もまた、個々の顧客とのブランドプロミスである、という意思の表明です。

※同社webサイトより
https://www.sonylife.co.jp

株式会社エシカルノーマル

※同社webサイトより
エシカルノーマル - エシカルノーマル (ethical-normal.com)

エシカルノーマルは、創業したばかりで株式非公開の、小さなスタートアップ企業です。コロナ禍で増加するハウスクリーニングニーズに対し、作業員や顧客の健康を守り、環境への影響を極力低くすることを目的として設立されました。
そのため、当初から「10R」と「4つの約束」をブランドプロミスとして掲げ、「自分の家の中を綺麗にするために外の世界を汚したくない」と考える人々とかわす約束ごとを定めています。

3社の実例が表すもの

これら3社は、業種も規模も異なります。しかし社会に対して、特に顧客に対して自らの信念(ミッション、ビジョン、バリュー、あるいは明文化されていない使命や信条など)に基づく活動のスタイルをはっきり表明するべきだ、とする姿勢は同じです。その想いから、それぞれの企業は十分な検討過程を経て約束(プロミス)の言葉を紡ぎ、大きく掲げました。

その契機になったのは、ツインバードでは70周年という節目における、ブランド価値の見直しでした。70年という時の流れのなかで、自分たちが提供してきた価値の本質は何だったのか。そしてこれからの時代に、その本質をさらに研ぎ澄まし強化するために、何を立脚点とするのか。周年を迎えるにあたり、ツインバードはここを明確にすることが必要だと考えたのです。

従来のハウスクリーニングに対する疑問から出発したエシカルノーマルでは、創業の理念に直結する、「世界を汚さないきれいごと」を体現した商品・サービスの品質が、そのまま約束の言葉になっています。 これらは業界に一石を投じる大きな差別化のポイントですが、先にSWOT(強み・弱み、機会・脅威の分析)があって差別化ポイントを探したのではありません。自分たちはこう考える、こういう機能・価値を提供したい、とする事業のコンセプトが先にできて、それを表明すること自体がブランドの約束、プロミスの言葉となったのです。この種のブランドプロミスはシンプルかつストレートですが、受け手にとってもわかりやすい、説得力のあるものとなります。

さてそれでは、ソニー生命の場合は何がブランドプロミス設定のきっかけだったのでしょうか。 実はここに、「ブランドプロミス」がなぜ大切なのか、という大きな理由が潜んでいます。

ここまでは3社の事例を紹介し、ソニー生命におけるブランドプロミス破綻の経緯を解説しました。
●ツインバード工業
●ソニー生命
●エシカルノーマル
ソニー生命に限らず、ブランドが信頼を損ねる事態、事例がしばしば世間を騒がせます。表明していることと、実際にやっていることが違う「言行不一致」は、ブランドが社会に送るメッセージを虚偽のものにしてしまいます。

Promises,promises!

イギリス英語に「Promises,promises!」という慣用句があるのをご存じでしょうか。これは「どうせ口だけ」で信用ならない、というニュアンスで用いられる言葉です。何も約束しない状態は「ゼロ」ですが、一旦約束を交わしておきながらそれを反故にすれば、「マイナス」の評価が下されます。Brand PromiseをBrand Promises,promises!にしないために、ブランドの送り手は常に状況をマネジメントし、細部にまで気を配る必要があるのです。
このことは、必ずしも「ブランドプロミス」と銘打ったものを掲げる企業・ブランドだけが、気にかけていればいいというわけではありません。特に文章表現としては表明していなくとも、顧客や社会とブランドの間で暗黙の合意や共有がなされている場合には、すべて当てはまります。

2022年3月、グローバルにビジネスを展開するコンサルティング企業の日本法人が、社員エンジニアに度重なる長時間の違法労働を課していた事件が発覚しました。同社は顧客企業に対し、業務プロセスの改善を提案するサービスを生業としていますが、その立場にある企業が法令を遵守せず、働き方改革の潮流に逆行したのでは、約束違反の誹りを免れません。

ブランドプロミスが破綻する要因

それでは、どうしてこのような事態が起こるのでしょうか。ブランドプロミスが破綻する要因はいくつか考えられます。
明文化されている、いないにかかわらず、ブランドの約束は基本的にその企業の理念にもとづいて成立します。そしてRHCのブランディングnote記事、CIの三大要素3・BI(ビヘイビア・アイデンティティ)の本質は何か (rhcnet.com)でも示しているように、理念は組織の行動(ビヘイビア)に翻訳されて組織に体現されます。

ブランドプロミスが破綻をきたすのは、この「翻訳と体現」のプロセスに問題があるのです。
1)具体化プロセスの不在:ブランドとして掲げた方針・理念が有名無実で、ビヘイビアや具体的な指針の形で示されなかった
2)理解促進の不足:ブランドの理念が目指す世界観を、従業員をはじめとする組織の関係者が理解していなかった
3)共感の不成立:ブランドが目指す世界観が、従業員をはじめとする組織の関係者に共感されなかった

企業やブランドは法人格ではあっても、会話を交わしたり身振りを示したりはできません。ビジネスの現場で顧客などステークホルダーと実際に接触するのは、組織を構成する「人」です。先端に位置する人は、その意味で企業やブランドを代表する存在として対象者と相対します。
この存在が、理念を実現する術を知らなかったり(1)、どういうことか理解していなかったり(2)、あるいは「会社はああ言ってるけど私はそうは思わない」と反発したり(3)すれば当然ブランドの像は歪んで伝えられます。
中でも最も悪影響が強く、問題を根深いものにするのが(3)の「共感の不成立」です。一時頻発した「バイトテロ」にしても、自分たちが理念を具現化する最先端にいることを自覚せず「バイトだし関係ない」と考え、また企業の側もその水準を要求しなかったために生じたものでした。男女均等、法令遵守、環境保全など現代にあっては欠かせない社会的テーマも、ともすれば「そうは言っても現実はね」とスルーされてしまいがちです。言行一致、本音と建前の距離感をなくす努力を、企業やブランドは継続していかなければなりません。

ブランドプロミスを成立させる3要素とは

そのためにまずブランドは、プロミスと定める世界観をビヘイビアに翻訳し、もれなく組織の上層から末端まで自覚を促すシステムを持たなくてはなりません。行動指針やクレドなど文言の充実化、ブランドブックや社内報のような伝達媒体、研修や社内SNSなどのフィードバック機能を用意して、プロミスの浸透につとめることが必要です。
またこれらのシステムにより、従業員個々の資質向上が求められます。理解力、想像力を高め、誰もが組織を代表するに足るふるまいを、身に着けてもらうのです。
そして最も重要なのは、ブランドプロミスを体現できる組織風土、企業文化を形成することです。
「どうせお題目なんだから」「自分ひとりがやらなくても大勢に影響ない」とブランドの想いを冷笑したり、傍観を決め込む風土が蔓延していては、ブランドは約束を果たすことができません。
逆に、分かったようで分からない、企業文化って何だろう? (rhcnet.com)で紹介したごとく、組織と個人が肯定的に企業文化を形成するブランドは強い求心力を持つようになります。
ブランドプロミスを成立させ、維持し、最適化するPDCAを回すために、これら「システム」「個々の資質」「企業文化」の3つが不可欠だということを、私たちは肝に銘じておく必要があるのです。

ライタープロフィール

神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長

創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。

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