CIの三大要素1.ブランドの根幹を成すMI(マインド・アイデンティティ)
ブランディング
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Identity(アイデンティティ)という言葉は、ラテン語のidentitasに由来します。もともと日本語には存在しない概念なので「自己同一性」「自己認識」「自己存在証明」などと表現されたりしますが、かえって抽象的で分かりにくい和訳です。
アイデンティティは「確立する」「崩壊する」などの複合動詞と共に使われることが多く、このことからある存在が「他の何者でもない独自の主体である」ということを認識したり、自覚したりすることを表すのではないか、と考えられます。
CI(コーポレートアイデンティティ)を構成する三大要素
では、その認識や自覚はどこから来るのでしょうか。突き詰めて考えると哲学的・精神的な領域に突入してしまいそうですが、ビジネスの現場では「CI=コーポレート・アイデンティティ」「BI=ブランド・アイデンティティ」のように「その企業らしさ、ブランドらしさを形成する要素やプロセス」を指すものと考えれば、理解しやすくなるでしょう。
1980年代からわが国で盛んに行われたCIにおいては、企業のアイデンティティをMI・BI・VIという3つの領域から成立するものとして位置づけました。すなわち「MI=マインド・アイデンティティ(理念要素)」「BI=ビヘイビア・アイデンティティ(態度、行動)」「VI=ビジュアル・アイデンティティ(視覚的個性)」です。
日本の柔術に、明治期に確立された「心・技・体」という考え方があります。この3つの要素を兼ね備えることで武道家としての人格が形成される、というものですが、心はマインド、技は立ち居振る舞いを表すビヘイビア、体は外観つまりビジュアルに相当すると考えると、ちょうどCIの基本的な思想と一致します。心・技・体がバランスすることで人格を形成するのと同様に、MI・BI・VIが揃って初めて企業あるいはブランドのアイデンティティが確立されるのです。
マインドこそ企業アイデンティティの核
その根幹をなすものが心=MIです。CI開発においては多面的な調査と分析を通じて、計画の中心概念となる理念的要素を抽出します。その原資はさまざまで、明文化された社是や創業者の言葉、社内に形成された企業文化や風土など、企業により異なります。これらをもとに現状と課題を明確化し、必要に応じてビジョンやミッション、バリュー、また自己規定やステートメント、スローガンなどの表現系を整備していくのです。
本来言葉にならない創業時の想いや社会的使命、提供していく価値などを言語化することで、人々の意識にMIとして印象付けられます。これを実際の企業活動や構成員の行動面に表すものがBIであり、シンボルマークやコーポレートカラー、また名刺や社用車、看板、店舗などの視覚要素に展開したものがVIとなるのです。
企業そのものがブランドとイコールである場合にはCI=コーポレート・ブランド・アイデンティティとなり、商品やサービスブランドのレベルでこのプロセスを実行すればBI=ブランド・アイデンティティとなります。
(注・ビヘイビア・アイデンティティとブランド・アイデンティティは共にBIと略されます。混同しないよう区別して考えてください)
MIを意識させることが大事
DXの推進を契機にいま「ブランディング」や「アイデンティティ」に再び注目が集まっています。「自分たちは何者で、どのような人々にどのような価値を提供し、社会の中でどのような存在でありたいのか」をブランドの主体者自身が明確に認識し、目指すその像をすべてのステークホルダーに伝えていくこと、そのプロセスがブランディングです。
極海に漂う氷山は、全体の7〜8割が海面下に沈んでいると言います。外からは見えにくい水面下の部分があるからこそ、氷山は海上に壮大な姿を現出させることができるのです。CIやブランディングも、外部からは見えないマインドの部分がしっかり根ざし、MIに裏打ちされて目に見えるVIや、人々とかかり結ぶBIが形成されるというわけです。
MIを社内に浸透、定着させていくためには明確化するプロセスの段階から、企業の構成員を参画させ活動に巻き込んでいくことが効果的です。会社のあるべき姿と現場の業務を重ね合わせることで、より深いコミットメントが形成されます。エバンジェリスタ(伝道者)を中心にして社内報や社内SNS、ブランドブックなどコミュニケーションメディアも多用し、垂直・水平両方向の意見交換を活発に行うことが、お題目でない活きたMIの浸透に有効です。簡単にはひっくり返らない頑強な氷山を築き上げるために、海面下のMIを確実に定着させていきましょう。
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