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サスティナビリティ経営とは? 世界の取り組み事例15選

SDGs

この記事では、まずサスティナビリティ経営やサスティナビリティの国際指標となるGRIガイドラインについて解説します。続いて国内外の企業におけるサスティナビリティ経営の具体的な取り組みについて、成功事例やwebマガジンの事例などにより紹介してまいります。

サスティナビリティとは何か?

サスティナビリティ(Sustainability)とは「持続可能な開発・発展」(Sustainable Development)という概念から派生した、持続的成長のことを指します。

そのルーツを探ると、環境問題が世界的にクローズアップされ始め、わが国でも「公害」という言葉で全土が揺れていた1970年代に遡ります。経済発展と環境保全、途上国の開発推進をどのようなバランスにしていくのか、1972年に行われた国連の「人間環境会議」を契機として、国際的な課題になっていきました。2015年にニューヨークの国連本部で行われた「国連・持続可能な開発サミット」では、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、いわゆるSDGsが採択されました。これにより、サスティナビリティの考え方が広く社会に認知・浸透していったのです。例えば漁業大国である日本において、水産資源の持続可能性は非常に大きな問題であることから、産官学連携による取り組みが期待されています。

当然、企業やブランドにおいても、SDGs・サスティナビリティを無視しては経営が成り立たない時代がすでに到来しているのです。
本記事が貴企業におけるサスティナビリティ推進の一助となれば幸いです。

サスティナビリティ経営とは?

企業におけるサスティナビリティ経営とは、事業活動を推進するうえで持続可能性に配慮し、環境社会と自社の持続的な成長をともに目指す戦略を意味します。

これまでも企業は、フィランソロピー(Philanthropy)やCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)、ESG(Environment:環境・Social:社会・Governance:ガバナンス)といった社会の構成員としての責任を果たす概念を経営に取り入れてきました。しかしサスティナビリティは、SDGs(Sustainable Development Goals)に示された17のゴールと169のターゲットに象徴された、全人類が共通とする目標です。経営戦略の範囲を超えたよりグローバルで大きな概念として、企業が社会に果たす役割はこれまで以上に大きくなっているのです。

サスティナビリティ報告書とGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)とは

サスティナビリティの国際評価基準となっているのが、オランダのアムステルダムに本部を置く国際的非営利団体GRI(Global Reporting Initiative)が示すガイドラインです。
参考:GRIガイドライン第4版 | サステナビリティ日本フォーラム

GRIはUNEP(国連環境計画)の公認団体として、サスティナビリティに測定可能な可視化指標を策定する目的で設立されました。
企業や組織が持続可能な発展を実現するには、自らの活動のパフォーマンスが経済・環境・社会にどのようなインパクトを与えるかを考慮する必要があります。 GRIガイドラインに基づき国際的に認められたサスティナビリティ報告書の枠組みを適用することで、企業はサスティナビリティに関する取組のインパクトを測定・分析し、社会に広く伝達することが可能となります。これにより、企業の透明性と説明責任が客観的に確保され、ステークホルダーとの信頼関係構築につながります。

世界の大手企業の上位250社のうち、75%がGRIスタンダードとガイドラインを利用してサスティナビリティ報告書やCSR報告書、ESGレポート等を発行しています。Bloomberg、NASDAQ、Reutersなど主要な金融情報機関もまた、企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)情報を分析するためにGRIの枠組みを使用しています。

サスティナビリティ経営の取組み事例15選

1.Lush

イギリスの化粧品メーカー「Lush」をご存じでしょうか。 カラフルでよい香りの石鹸や入浴剤が世界中で人気を博し、日本にも数多く出店している有名企業です。もともと添加剤の不使用やパッケージにフェアトレード素材を採用するなど、エシカルを意識した企業でした。プラスチック包装を廃止した結果、3年間で売り上げを3倍にした実績があります。
廃棄プラスチックによる環境汚染という社会課題の解決だけでなく、包装コストを開発に転換したことにより高品質な商品を生み出すなど、消費者からも口コミで応援されました。 また、Lushは設立以来、化粧品開発のための動物実験に反対しています。
ヨーロッパでは1980年から化粧品の動物実験に反対するキャンペーンが各国で広まり、消費者は署名を集めたり寄付をするなど、化粧品会社に対するデモ行進に参加しました。動物実験を行った化粧品には不買運動が起こるので、現在EUで製造・販売される化粧品は動物実験が一切行われていません。Lushはその先鞭をつけた企業として、広く人々に記憶されています。

しかしLushはことさらにこれらを喧伝せず、商品のカラフルさや楽しさを前面に出すマーケティングを推進しています。webサイトを一番下までスクロールすると、小さなアイコンでひっそりと、しかし着実なエビデンスを伴った消費者との約束「NAKID PRODUCTS」、「FIGHTING ANIMAL TESTING」、「FRESH COSMETICS」、「100% VEGETARIAN」、「ETHICAL BUYING」、「HANDMADE WITH LOVE」が表示されます。こうした態度もまた、評価されるポイントといえるでしょう。

2.キリンホールディングス

キリンホールディングスの人気商品「午後の紅茶」シリーズ。その原材料である紅茶葉の生産地の1つにスリランカがあります。キリンはスリランカにおける93の農園でレインフォレスト・アライアンス認証を取得し、環境・社会・経済の3つの側面で持続可能性を支援する取り組みを行っています。

環境の側面…森林保全や野生生物の調査・保護、ゴミの分別やリサイクルの指導 社会の側面…農園内に診療所を設置、従事者への住居の提供など、農園労働者の生活向上への取り組み 経済の側面…農業技術そのものについてトレーニングを実施。農薬や肥料の使用量を抑えながら収量を上げる科学的な方法を指導し、森林を守りながら茶葉や従事者の安全性を確保するとともに、農園の収益性向上に貢献

午後の紅茶とスリランカ 茶葉の産地との深いつながり|特集・読みもの一覧(ソフトドリンク・乳製品)|キリン
キリンライブラリー|ブランド ソーシャル アクション|キリン

3.トヨタ自動車

トヨタ自動車が手掛ける、富士山の麓に作られた「Woven City」は、あらゆるモノやサービスがIOTやAIの技術によってつながる「コネクテッドシティ」の実証都市です。

モノやサービスがネットを通じて結びつき、新たな生活の価値やビジネスモデルを創造していきます。 ここでの実証実験は単なるクルマを中心としたモビリティ社会を越えて、渋滞問題や社会の高齢化、自然環境との調和共生といった来たるべき都市のあり方を目指すものです。

ここにはもともとトヨタの東富士工場があり、多種多様な車を「カイゼン」の精神で世に送り出してきました。そのDNAを受け継ぎ、Woven Cityは人を中心に未来を創造する未完成の街として、現在は企業や研究者など2000人以上が暮らしています。

人々の暮らしのあり方そのものを追求し、街をまるごと持続可能な社会実現に向けて作ってしまう壮大な実験。巨大な資本力と先進技術力、カイゼンの伝統を背景としたトヨタだからこそ可能なサスティナビリティ経営への挑戦です。

なぜトヨタが街をつくるのか。未来の実証都市「Woven City」
:「実現したいイノベーションはたくさんある」Woven Cityが目指すもの

世界のサスティナビリティ企業のWEBマガジン取組み事例

4.Nestle「Our Stories」

「Nestleは、日々、世界中の何十億という人々の生活に関わっています。」という言葉で始まるネスレのwebマガジン「Our Stories(日本名:ストーリー)」。

サイトの左上に「Good food Good life」というタグラインを掲げ、
「ごみの削減」「イノベーション」「ダイバーシティ&インクルージョン」「パッケージング」「ビジネス、ファイナンス」「人権」「持続可能な調達」「栄養・健康・ウェルネス」「気候変動」「水」「自然、農業」「若年層」「製品、ブランド」 などのカテゴリーごとに、興味深いコンテンツをグローバルに配信しています。「ネスレのなぜなにコーヒー」と題された製品と結びつきの深い記事だけでなく、サスティナビリティ推進のためのネスレの取り組みや誰もができることの提案など、日本オリジナルのものも含めて多彩な内容で構成されています。
グローバルサイトでは執筆した社員のプロフィールやメッセージも掲載され、説得力ある内容となっています。

Our stories | Nestl?
:ストーリー | ネスレ日本 企業サイト | Nestl? : Good Food Good Life

5.Zappos「Zappos stories」

Zappos.comは、ラスベガスに本拠を置く小売事業者です。靴の販売から始め、アパレル製品全般を取り扱っています。
「サービスを通してwowという驚きの体験を届ける」カルチャーを掲げる同社のWEBマガジン「Zappos stories」には、「カスタマーサービス」や「文化」、「コミュニティ」というカテゴリーが並んでいます。 従業員のキャラクターやさまざまなバックストーリーによってユニークな差別化ブランディングを図り、顧客や雇用者とのエンゲージメント向上を目指しています。パタゴニアやGoogleにも似た、アメリカ特有の自由で先進的な気風を持つ企業の一つといえるでしょう。 CSやES、企業文化については、また別のサイトが用意されています。

Our stories | Nestl?>Zappos Stories | Zappos.com Culture Blog
Zappos Insights - Culture Training - Customer Service Training - Human Resources Training

6.Neste「Journey to Zero stories」

ネステはフィンランドのエネルギー会社です。フィンランド国内における石油の安定供給を目的に1948年に設立されました。

サスティナビリティを強く意識する北欧文化を背景に、その後再生可能エネルギーやバイオ燃料などの事業にも進出、現在「JOURNEY TO ZERO:ゼロへの旅」というテーマでwebマガジンでの情報発信に努めています。持続可能な社会形成に資するアイデアや欧州のさまざまなサスティナブル関連ニュースを配信するとともに、自社の製品・サービスが社会を変革していく過程をコンテンツ化し、人々に届けているのです。

Journey to Zero
コンテンツ事例:ネステは航空業界初のCORSIA認定の持続可能な航空燃料をアメリカン航空に提供|ネステ

7.Bosch「Our stories」

モビリティや電動工具、インダストリアル・テクノロジーを事業とするドイツのBosch。webサイトでは最先端の分野でさまざまな課題解決に貢献する技術やソリューション、また現場で働く従業員やインターンシップの声を紹介しています。

日本版のコンテンツとしては、未来のクリーンエネルギーとして期待されるSOFC(固体酸化物型燃料電池)プロジェクトや社内の若手育成プログラムなど、持続可能な企業を目指す実際の取り組みを数多く見ることができます。

Stories | Bosch Global
コンテンツ事例: クリーンエネルギー「SOFC」の事業開発を推し進める、ボッシュの若き挑戦者たち | 日本のボッシュ・グループ
早期からリーダーとしての資質を磨く、若手向け育成プログラム「fastpatH」part2 | 日本のボッシュ・グループ

日本のサスティナビリティ企業のWEBマガジン事例

8.ヤンマー「Ymedia」

ヤンマーはブランドステートメント(ブランドの理念・使命)として“SUSTAINABLE FUTURE―テクノロジーで、新しい豊かさへ。―”を掲げています。そのため農業や船舶用エンジン、エネルギー、建設機械など、それぞれの事業分野においても持続可能性を意識した構成となっています。

webマガジン「Ymedia」ではスポーツや文化支援などバラエティに富んだ分野を包含していますが、サスティナビリティに特化した内容の濃いコンテンツが充実しています。

Ymedia|Yanmar
コンテンツ事例: 食品廃棄物の有効活用で持続可能な社会を実現する、バイオコンポスター「YC100」
多様な人材が活躍する ヤンマーシンビオシス社員たちの働く想いとは

9.クボタ「KUBOTA PRESS」

クボタはwebサイトでサスティナビリティページを設けています。「食料・水・環境」を事業分野とする企業の責任として、また使命として、持続可能な社会の実現を目指すことを宣言しています。同社のサスティナビリティに関するポータルの機能を果たしており、さまざまな情報発信を行っています。

加えて、会社の将来性・活動をより分かりやすく伝えるために「Kubota Press」というWEBマガジンを運用しています。サスティナビリティページでは伝えきれないクボタの将来の目標や現状の取り組み、社会問題(食料不足、水不足、人手不足)に対する具体的な事例を取材を交えて配信。クボタの取り組みをより深く伝える構成と内容になっています。

KUBOTA PRESS
コンテンツ事例: 廃棄物から価値ある金属を取り出す「ディープ・リサイクル技術」への挑戦
世界とともに私たちが取り組むカーボンニュートラルとは

10.ダイワハウス「SUSTAINABLE JOURNEY」

ダイワハウスはWEBマガジン「SUSTAINABLE JOURNEY」を運営しています。このマガジンのコンセプトは過去から未来への「時間軸」、日本から海外への「空間軸」を旅しながらさまざまなアイデアを探し、次世代のライフスタイルを考えるというものです。その名の通り日本各地、世界各地を旅するように「人」、「街」、「暮らし」を切り口とした豊富なコンテンツが読めるようになっています。

「サスティナブルな人」では、「環境問題」や「地域コミュニティ活性化」などの社会的課題から、「教育」、「働き方」といった身近なテーマまでさまざまな業界のフロントランナーたちのインタビューから、 「サスティナブルな街」では、さまざまな国や地域での新しい取り組みまで。「サスティナブルな暮らし」では、毎日の「家事」への向き合い方や「お買いもの」をする際に意識したいこと、また「子育て」において大切にしたい視点等のヒントが。

そして「サステナブルとは」のコーナーでコーポレートサイトのサステナビリティページに還流し、ひと通り読めばサスティナビリティの背景から現状、多様な取り組みなど、企業としてのダイワハウスの活動が俯瞰できる構成となっているのです。

SUSTAINABLE JOURNEY
コンテンツ事例: RE100・EP100 世界の加盟企業と大和ハウスグループの取り組み

11.みずほ銀行「未来想像WEBマガジン」

みずほ銀行の「未来想像WEBマガジン」は、「想像しよう。未来が始まる。」というキャッチフレーズのもと、投資ややりたいことの実現、ライフイベントへの備えを支援するwebメディアです。 資産運用や貨幣理論、貯蓄やインフレなどといったお金にまつわる話題の解説は、銀行ならではのもの。パン屋さんを開業したい、街おこしをしたい、南極に行きたいなどの夢を実現させた事例や、医療・出産・教育・老後などライフステージごとのトピック、働くスタイルの話題など、実践的で誰もが気になる内容が満載です。地球環境のような大きな話だけでなく、自分ごとから始まる人生の持続性もまた大切なサスティナビリティであることを、未来想像WEBマガジンは気づかせてくれるのです。

12.オカムラ「ACORN」

オフィス環境事業を生業とするオカムラは、「ACORN」というWEBメディアを運用しています。ブランドステートメントは「自然共生と生物多様性に向けたアクション」。ACORN(エイコーン)とは英語でどんぐりを意味する言葉です。次の種をつなぐために、なくてはならない存在であるどんぐりを、オカムラの活動の象徴としています。

これまでの活動として
• 木材利用による 人工林の健全化
• 自然体験型研修
• WoodLand WoodWork
• 環境出前授業
• 森が学校計画
• 馬搬復活支援
など多岐にわたっており、ここから生まれたプロダクトなども紹介されています。

13.AISIN「AI Think」

ビジョン、イノベーション、スタイルの3つの視点からアイシンの今、未来を知る「アイシンク」
先日衝撃のモデルチェンジが発表されたトヨタのクラウンですが、例えばこのクルマの開発に初代から最新の16代までずっと関わってきた同社の挑戦の歴史も、ここで知ることができます。 自動車産業はカーボンニュートラルや人々の移動といった面で、サスティナビリティと深く関係する業種です。その責任と矜持をもって、次世代の価値創造に取り組むさまざまな姿を、アイシンクを通じて世に発信しているのです。 他の多くの企業と同様、コーポレートサイトでも同社はサスティナビリティ専用ページを運営していますが、オウンドメディアの形で楽しい読み物としてコンテンツ化することで、業界関係者や株主以外の人々にもアイシンの志を伝えることができるのです。

14.村田製作所「技術記事」

”Innovator in Electronics”というコーポレートスローガンのもと、「独自の製品を供給して文化の発展に貢献する」ことを使命としてきた村田製作所は、webマガジンとして独立したオウンドメディアを持っていません。 シンプルに「技術記事」と題され、まとめられたサイトには専門的で高度な内容のコンテンツが集められています。そこには持続可能性や社会貢献、環境保全をまさに自社の商品・サービスと同一線上で考えていく同社のスタイルが表れています。
企業としては環境・社会・ガバナンスのCSRの視点で社会的責任を捉え、コーポレートサイトでもこうした構成がとられています。こちらも硬さを感じさせる体裁ですが、真摯さと真面目な態度がむしろ同社の社風を際立たせ、信頼感の形成の一翼を担っています。

15.TDK「ストーリー」

TDKはトップページの代表メッセージで、「サステナブルな社会の実現を目指し、価値ある技術と製品を提供する」と表明するほど持続可能性を強く意識している企業です。磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーとして、社会のさまざまな場所で活躍する製品を送り出している同社は、思わぬところでイノベーションを起こしています。

その意外性を活用し、オウンドメディア「トピックス―最新のストーリー―」にまとめて公開しているのです。アスリートの世界記録を支えるLEDスターティングボード、壊れる前に異常を感知し機器のメンテナンスを知らせるセンサー、未電化地域にエネルギーを届ける燃料電池技術。TDKのwebサイトは「こんなところにTDK」という驚きを私たちに伝えてくれます。またIoTやMobility、Roboticsなど7種類の動画で未来を見せてくれるムービーコンテンツも、エンターテイメントとして楽しめるクオリティに仕上げられています。

ライタープロフィール

神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長

創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。

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