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細田悦弘の企業ブランディング 〈第28回〉 レジリエンスでつかむ!時代を味方につける競争力

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台風一過の九州南部に出張したことがあります。前日までの暴風が想像できないくらいの爽やかな青空に、南国のシンボルであるワシントニアパームの並木が映えていました。空港から目的地に向かうタクシーの運転手さんに声をかけてみました。彼の放った一言から、時代のキーワード「レジリエンス」の本質を垣間(かいま)見ることができました。

ワシントニアパームとレジリエンス

数年前の台風の翌日、九州南部に出張しました。タクシーで空港から市街地に向かう大通りで、南国のシンボルであるワシントニアパームの並木が青空に映えていました。台風一過とはいえ、高さ20メートル前後ともいわれる樹木が暴風で折れたり、倒れたりしたのではないかと気になり、運転手さんにたずねてみました。すると、彼は少し間を置いて、次の言葉を返してくれました。「たしかに、風であの大きな葉っぱが落ちたりするけど、そこまで木の幹は折れないですよ……。だって、しなうから
『しなうから』。
このたった一言に、目まぐるしい時代の変化への対応が迫られる企業や個人にとってのキーワード、「レジリエンス(resilience)」の真髄がうかがえました。

レジリエンスの本質は、外的な衝撃に耐え、折れることなく、しなやかに立ち直る力といえます。強い風にもボキっと折れることなく、しなってまた元の姿に戻る竹のように、「逆境に見舞われても、しなやかに立ち直る力」を意味します。こうした観点によれば、企業にとってのリスクは、歴史と伝統とともに図体(ずうたい)が大きくなったのはいいけれども、『大きな古木』のように微動だにしない。結果、環境の激変という突風により、ボキっといく。こうした企業像がハイリスクの象徴といえましょう。

レジリエンスとは

レジリエンス(resilience)とは、元々は「反発性」 「弾力性」 などの物体の弾性を示す物理学用語でした。それが、「外からの力が加わっても、また元の姿に戻れる力」という意味で普及しました。心理学分野でも「精神的回復力」 「抵抗力」 「復元力」 「耐久力」などの精神的な強さの指標の一つである「心の回復力」といった意味で使われるようになりました。

今では、「外的な衝撃で折れてしまわず、しなやかに立ち直る強さ」という概念として、教育、子育て、防災、温暖化対策等のさまざまな分野で広まりました。企業や国家を対象にすると、「逆境をはねのけて回復する力」「変化に適応する力」などを表す語として使われています。ここ数年では、ビジネスやSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)など様々な場面で耳にするようになりました。

「変化への対応力」は競争優位の源泉

近年、「変化への対応力」が企業の競争力をいかに左右するかが鮮明になってきています。変化に対応できる組織風土、時代と調和する企業活動が強く求められています。いつの時代にも磐石な経営基盤を確保しつつ、あらゆる変化に柔軟に対応していくことこそが、企業の競争優位の源泉です。
そのために、レジリエンスは現代企業の必須の資質といえます。「回復力・復元力・強靭力・柔軟性・弾性(しなやかさ)」などを意味します。レジリエンスは、よく「脆弱性(ぜいじゃくせい)」という言葉と対で用いられます。脆弱性(Vulnerability)は『脆くて弱い』、つまり「壊れやすい」ということです。何かあった時には、すぐにボロボロと崩れてしまう、ダメになってしまう、というイメージです。つまり、その反対語である「レジリエンス」は、「何かが起きても、すぐにボロボロと崩れてしまわない力」「困難な状況にも耐え、立ち直る力」と捉えることができます。

時代とともに社会の関心や価値観が目まぐるしく変容するにつれ、企業への要請や期待される役割も、それを映し出して変化します。過去に通用してきた成功体験や理屈だけに拘泥すると、現代社会のためにならなかったり、場合によっては害を与えることになったりします。これまでどおりに、善(よ)かれと思ってやったことが仇(あだ)になることもあれば、今まであまり気に留めていなかったことが、時代が求めるプレミアムな価値になったりします。

今日の企業にとって、現代社会の要請や期待への『対応力』を研ぎ澄ませ、レジリエンスを養うことが不可欠であり、企業競争力の原動力となります。

飛行機は『向かい風』で飛ぶ

新型コロナウイルスのパンデミックも相まって、これを機に世界をより良い方向に変えていこうという機運が高まっています。レジリエンスは、苦境に陥っても志(パーパス:purpose)を持ち続け、社会の役に立ちつつ経済的に回復し、持続的成長に結びつける力と捉えることができます。それは逆境を成長の糧にして成功へと導く力、一歩前に踏み出す力といえます。

逆風(向かい風)という意味では、ゴルフのアゲンスト(Against)は避けたいものですが、飛行機は『向かい風』で飛びます。フォード・モーターの創設者であるヘンリー・フォード氏の金言を引用します。 When everything seems to be going against you, remember that the airplane takes off against the wind, not with it. (すべてが向かい風のように感じる時、思い出してほしい。飛行機は向かい風によって飛び立つのであって、追い風に乗ってではないことを)

航空力学を踏まえての珠玉の教訓です。飛行機は、翼が風を受けて発生する揚力(ようりょく:飛行機が進む方向に対して上向きに働く力)によって機体を浮かせる。したがって、向かい風が強いほど翼の上面と下面に大きな圧力差が生まれ、空に浮かべる揚力が増大するという原理です。

グリーンリカバリー(Green recovery)が注目されています。「緑の復興」とも称され、単に元の経済や生活に戻るのではなく、どうせ立て直すなら、環境(グリーン)分野への重点的な投資によって、停滞した経済を復興(リカバリー)させようとする動きです。国際的に注目されている景気浮上策で、成長から脱成長への「パラダイム変換」という見方もされます。コロナ禍の拡大による経済活動の縮小は、奇(く)しくも世界の人々に「きれいな空気」を再認識させることになりました。同様に、社会のさまざまな問題や歪みもいっそう焙(あぶ)り出されました。そこで、地球環境とともに社会課題を捉えながら、続可能な経済成長を目指す概念としての「サステナブル・リカバリー」も重要です。

時代を味方につけ、『らしさ』を発揮する

コロナ禍からの復興は、コロナ以前の社会に戻るのではなく、人々の価値観や社会の変化に柔軟に対応しながら、より盤石な地球・より健全な社会を実現する機会といえます。『しなやかな強さ、打たれ強さ、困難への適応力、復元力』で、時代を味方につけ競争力につなげていく時代です。

事業を通じて環境問題の解決や社会価値を創出しながら、同時に経済価値を生み出していく。価値提供の対象を、単に消費者や顕在顧客に限定するのではなく、潜在顧客である生活者や地域社会といったあらゆるステークホルダーに広げて信頼や支持を獲得する。そうした企業と社会との相乗発展を意識した企業活動が求められています。

これからの時代、個人も企業も志(パーパス)をきちんと持って、自分(自社)の本領である『らしさ』を発揮しつつ社会における存在意義を希求すれば、サステナブル・ブランディングにつながります。

【細田悦弘 プロフィール】

公益社団法人日本マーケティング協会「サステナブル・ブランディング講座」講師 / 一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
サステナビリティ・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、 理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。

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