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細田悦弘の企業ブランディング 〈第26回〉 「正直不動産」とインテグリティ

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NHKドラマ『正直不動産』が異例の反響を獲得しました。嘘もいとわないトークで成績優秀な営業パーソンが、嘘がつけない体になってしまい苦境に立たされます。でも、結果として顧客の心をつかみます。ここに、インテグリティが持続的な競争優位につながる真髄があります。

人気を博した、NHKドラマ『正直不動産』

人気漫画がNHKでドラマ化された『正直不動産』が異例の反響で話題となりました。「正直すぎる不動産会社が、顧客の心をつかんでいくストーリーが爽快だった」「不動産の知識も得られて、勉強になった」などの声が多く寄せられたそうです。

〈あらすじ〉
山下智久さん演じる主人公の不動産営業パーソンが、その口のうまさによって営業成績はナンバーワン、嘘もいとわないセールストークでやり手の名を欲しいままにしていた。そんなある日、アパートの建設予定地にあったほこらを壊したことから、たたりで嘘がつけない体になってしまう。言わなくてもいいことまでペラペラとしゃべる彼に、当然お客様は激怒し、契約寸前の案件まで次々と台なしになった。ところが、今まで嘘で固めて営業成績を上げてきた彼が、戸惑いながら『正直』でいる事の大切さに気付いていき、正直者が馬鹿を見ると言われがちな世の中に一石を投じる。そんな彼の姿に希望や勇気を感じられる爽快なビジネス・コメディ。

コンプライアンスとインテグリティ

営利企業であるかぎり、利益確保は宿命です。しかし、「契約さえ取れれば、嘘をついてもなんでもOK」とまでいかなくても、目先の経済的指標のみに執着し、モラルなき行き過ぎた収益の追求は社会性の欠如につながります。場合によっては、不祥事を引き起こすことになります。結果として、社会からの信頼を失い、企業の持続可能性を損なってしまいます。儲けるのは大事ですが、『儲け方』が厳しく問われる時代です。 したがって、現代ビジネスパーソンにとって、『インテグリティ』が強く求められるようになっています。ビジネス界では、早くからコンプライアンスは意識されていますが、昨今ではインテグリティに関心が高まっています。このインテグリティこそが、「正直不動産」の持続的な競争優位のキーファクターといえます。
では、コンプライアンスとインテグリティの違いを説明しましょう。

◎コンプライアンス
「不適切だが、違法ではない」。
大企業・有名企業の不祥事の記者会見にて、時々飛び出すフレーズです。残念ながら、「法律さえ守ればよい」「法律に抵触しなければ問題ない」という認識の企業不祥事が、まだまだ後を絶たちません。
一般的に「コンプライアンス=法令遵守」と捉えがちですが、「コンプライアンス≧法令遵守」といった具合に、2つは同心円ではなく、法令遵守はもとより、倫理的に問題がないか、そして社会的に望ましいかというレベルまでを見据えた概念で掌握することが大切です。
「コンプライアンス」を語源(応じること・従うこと・守ること)から発想し、企業が社会の要請に対して「きちんと対応する(Do things right)」といった認識が重要です。コンプライアンスとは、「法令や社会のルールを守り、社会正義を堅持し、社会の要請に応え続けていくこと」と捉えることが要諦です。
特に、社会の価値観は時代とともに変容し、企業への要請は刻々と変化し厳しさを増しています。『要請』とは、平たく言うと、「やってもらっては困る、やってもらわないと困る」ということです。こうした変わりゆく社会の空気感を俊敏に読み取って対応することが基本です。ズバリ、企業の『KY(空気が読めない)』は不祥事のもと。社会から白い目線を浴びることになります。コンプライアンスの主眼は、違法行為をしないことを超えて、社会からの顰蹙(ひんしゅく)を買わないことだといえます。たとえ違法行為に至らなくても、往々にして社会的評価は失墜します。端的に言えば、法廷で裁かれなくても、社会に裁かれるということです。社会(ステークホルダー)を敵に回せば、無形資産が傷つき企業価値を棄損します。

◎インテグリティ
さらに今日の企業は「一段高い判断基準」をもって、組織の「社会的感受性(Sensitivity)」を高めることが必携の資質となっています。ここに「インテグリティ」が重視される視点があります。コンプライアンスが社会から求められる他律的な規範であるのに対し、インテグリティは、個人の倫理・道徳を基準とし、内面から自発的・自律的にわき上がる規範といえます。「悪いことをしない」という受動的なコンプライアンスにとどまらず、インテグリティは、さらに踏み込んで、人として組織として「正しいことを行う(Do the right thing)」「期待に応える」という能動的な捉え方となります。

「インテグリティ(Integrity)」は、誠実・正直・真摯・高潔を表す言葉です。個々人の「善悪(善い悪い)を判断する価値観」ともいえ、ビジネスにおける姿勢や判断の根底に宿る概念です。時代の変化により、企業の正直さ・誠実さ・真摯さがますます問われています。これまでの常識や過去の慣習にとらわれず、自らの信念にもとづき正しいことを勇気をもって行うことが求められています。

インテグリティが欠如した経営判断や社員の言動等が露呈すると、たとえ法に触れなくても、社会的評価(レピュテーション)に負の影響を与えます。その逆に、ビジネスの節々にインテグリティが発露すれば、ステークホルダーからの賞賛や信頼が獲得できます。

『正直』は持続的な競争優位

正直不動産の『正直』は、持続的な競争優位の源泉といえます。住宅は一生に何度も何度も買い替えるものではなく、賃貸においても、コロナ禍も相まって、その重要性を身に染みている世の中からは、『正直不動産』はありがたいものです。さらに、不動産関係は専門的なことが多く、住んでみないと実際にはわからないこともあり、最終的には相手を信じるほかありません。そして、信頼する顧客や取引先はまわりに薦めることでしょう。今や、インテグリティはパーパス実現の原動力となり、業種業態・規模の大小に関わらず、企業ブランドの芯や背骨と位置付けることができます。

【細田悦弘 プロフィール】

公益社団法人日本マーケティング協会「サステナブル・ブランディング講座」講師 / 一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
サステナビリティ・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、 理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。

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