カテゴリー

企業理念の構成要素 スピリットとは

ブランディング

「ブランディングnote」の企業理念体系概説シリーズ、今回は「スピリット」についてのお話しです。

企業の理念やマインドに深く関心を寄せておられる皆様は、スピリットが別名「クレド(Credo)」とも呼ばれ、企業の構成員にとって行動の指針・基準となる概念である、ということは既にご存じと思います。

企業理念の中心的存在であるMVV=ミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Values)の3要素は、どちらかと言えば抽象度の高い概念でした。対してスピリットやスローガンは、より現場に即した具体的な言葉を用いて表現され、実際に活用される「理念ツール」です。

企業理念におけるスピリットの位置づけ

スピリット(SPRIT)という言葉は、ラテン語のスピリトゥスspiritusに由来します。身体や物体など物理的な存在と区別され、肉眼ではとらえることのできない形而上的・精神的な実態を表すものです。

日本語では霊的な魂、精神という言葉がこれに近いニュアンスを持っています。
ここから、企業理念におけるスピリットは一般に「組織が共有する精神的なよりどころ」という理解がなされています。組織に所属する構成員はスピリットを共有することにより、

■ 日々の業務や行動に際しての具体的な指針、鑑となる
■所属する組織や社会に対する貢献が実感できる
■ 組織としての一体感、統一感が実感できる
というメリットが得られます。

MVVも「組織が共有する精神的なよりどころ」であることに変わりはありませんが、スピリットは組織の内部に対して、MVVをより現場に近い言葉で理解し、実践するために設定されます。

スピリットをどう表現するか

スピリットはより現場に即した、実践に活かすための言葉です。そのため、MVVのように表現を極限まで集約したり、象徴的に言い表すのではなく、組織に属する人々が理解し共感しやすいものであることが求められます。そこで策定にあたっては

■ 一貫性:MVVと整合し、理念として一貫するものであること
■明瞭性:言い表す内容が明らかで、どのようにでもとれるような表現でないこと
■簡潔性:覚えやすく、冗長な表現でないこと
■具体性:日々の仕事に反映できる、具体的な内容であること
■網羅性:MVVを実践するために、やるべきことが過不足なく盛り込まれていること
■普遍性:その組織において例外なく受け入れられるものであること
■独自性:その組織ならではの、ユニークでその組織らしい表現であること
などを基準に磨いていきます。

実はこれが、なかなか難しいプロセスなのです。「その組織内にいる人々にしか分からない、独自の特性や企業文化」を理解しなければ、上記のような要件を満たす表現が見つけられないからです。

スピリットの作成を外部の代理店や専門会社に依頼するケースもありますが、「丸投げ」では浸透・定着に至らず、失敗してしまうこともあります。
そこで多くの場合企業組織内にプロジェクトチームを設け、そこを中心にしつつ、ノウハウを有する専門機関がワークショップやファシリテーションなどの手法を用いて支援する、という形をとります。

スピリットの実例紹介

「支援会社の力を借りつつ自分たちで進めていったスピリットの策定事例」を、ひとつ紹介しましょう。

大和ライフネクスト株式会社 2015(平成27)年の4月、大和ライフネクスト株式会社と株式会社ダイワサービスが経営統合しました。その際に、統合前の大和ライフネクストが掲げていた従来の経営ビジョンを継承したのですが、両社の融合が進んでいくにつれ、新しい理念を求める声が生まれてきたのです。
そこで外部から社内コミュニケーションを支援する専門会社を招き、2017年6月からビジョンを策定する「SCOPE of NEXTプロジェクト」と、行動指針を考える「VALUE COMPASSプロジェクト」の2つで構成する、全社的な「スピリット・プロジェクト」が立ち上げられました。
当時経営トップであった石崎社長には「社員みんなであるべき姿を描きたい」という思いがありました。新しい時代に事業を展開するには、トップダウンではなく従業員一人ひとりの力を結集する必要がある、と考えたからです。

「SCOPE of NEXTプロジェクト」では、全役員による3回のワークショップが実施されました。ここでは、抽象的になりがちな言語化プロセスをファシリテーションによって導き、可視化していく手法が採用されています。
また「VALUE COMPASSプロジェクト」のメンバーは、全社から有志を募りました。約60名の応募者は「プロジェクトを通じて何をしたいのか」「なぜ参加したいと考えたか」をレポートで提出、そこから属性バランスを考慮し30名が選出されたのです。
成果物は「DLN SPIRITブック」としてまとめられました。
そこに示されているのが、新ビジョン「LEAD NEXTYLE あしたのあたり前を、あなたに。」と、「VALUE COMPASS わたしたちが大切にする指針」です。
目指す未来|大和ライフネクスト|新卒採用サイト (daiwalifenext.co.jp)

プロジェクトにはもうひとつの大きな仕事、出来上がったスピリットを全社にお披露目し、共有するという使命がありました。そこで全社員がワクワクし、実践していきたいという思いにつながるイベントを企画したのです。都内のホテルに社員2,000人が集まり、「DLN Spirit Day」が開催されました。ヘッドセットを着けた社長が登壇するとスクリーンに映像が流れ、全席に配布されたリストバンドが七色に光を放ちます。続くトークセッションではプロジェクトメンバーと参加者全員がスマホを使って双方向でコミュニケーションを行うなど、さまざまな仕掛けが用意されたのです。イベントの最後には経営陣からすべての参加者に直接、スピリットカードとネックストラップが一人ひとり手渡されました。

その後もDLN Spiritは要所要所のタイミングで登場し、新規事業推進に際しても原動力になっているといいます。
「DLN SPIRIT」を体現する社員を表彰する制度も設けられ、現場の最前線で活躍するシニアのフロントマネージャーなどが対象に選ばれています。
「生涯現役で働く」-シニアが活躍する職場-|Spirit of Hearts|大和ハウスグループ (daiwahouse.com)

スピリットは企業により呼び名も表現内容も異なりますが、その組織に属する人々の職務遂行に、方向性と推進力を与える「エンジン付き羅針盤」とも言うべき存在であることは、間違いありません。

ライタープロフィール

神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長

創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。

あなたのおすすめ記事