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サステナビリティ経営と「ANDの才能」 細田悦弘の企業ブランディング 〈第19回〉

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大谷翔平投手が高校生時代に記した「人生計画表」には、27歳の欄に「MVP」とつづられていたそうです。打者か投手かの「ORの抑圧」を乗り越え、打って投げての「ANDの才能」による二刀流で実現しました。サステナビリティ経営においても、「ANDの才能」がパーパス実現のカギとなります。

ORではなく、AND

米大リーグで今季リーグMVPを受賞したエンゼルス・大谷翔平投手が花巻東高時代に記した「人生計画表」には、27歳の欄に「MVP」とつづられていたそうです。打者か投手かの「ORの抑圧」を乗り越え、今シーズンは打って46本塁打、投げて9勝と二刀流で席巻し、リーグMVP投票では満場一致で選出されました。米メディアは、「ショウヘイ・オオタニが10代で記した目標を達成」と伝えました。彼の二刀流を成し遂げた姿こそが「ANDの才能」といえます。

有名なビジネス書である、ジム・コリンズが著した「ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則」の一節に、「ANDの才能」があります。対比する言葉として「ORの抑圧」が挙げられています。これは、ものごとをAかBのどちらかの、二者択一的に捉えることです。逆説的な考え方や一見利益が相反するものは同時に追求できないという一般的通念でもあります。

一方で、「ANDの才能」は、さまざまな側面の両極にあるものを同時に追求する能力である。AかBかのどちらかを選ぶのではなく、AとBの両方を手に入れる方法を見つけるのであると記しています。これは野球の二刀流だけでなく、サステナビリティ経営のパーパス実現においても必須の『才能』です。

パーパス実現のため、「AかBか」ではなく、「AもBも」で考える

気候変動等の環境問題や様々な社会課題が顕在化してきた今日、企業の存在価値が見直されています。企業は株主・経済優先から、従業員、お客様、地域社会などのすべてのステークホルダーの利益に配慮することが求められています。サステナビリティ時代に存在意義を発揮する企業であるためには、「経済か社会かではなく、経済も社会も」というパーパスを打ち立てることが必須です。経済活動の基盤である環境・社会の課題を解決しながら事業を持続的に成長させる、サステナビリティ経営のパーパスを実現するためには「ANDの才能」が不可欠です。

ここで、「ビジョナリー・カンパニー」に記載のある、AかBかの『ORの抑圧』事例の一部を引用し、サステナビリティ経営の観点から『ANDの才能』でAとBを両立してみましょう。 ・「変化か、安定かのどちらかだ」 ⇒ 変化に対応してこそ、持続的成長が果せる ・「低コストか、高品質かのどちらかだ」 ⇒ 時代が求める品質に投資することで、持続可能なビジネスとなり、将来の利益確保につながる ・「未来に投資するか、目先に利益を追求するかのどちらかだ」 ⇒ 目先の利益を続けていきたければ、未来への投資は必である ・「株主の富を生み出すか、社会の役に立つかのどちらかだ」 ⇒ 社会(ステークホルダー)の役に立ち、支持が得られれば、中長期の株主利益(リターン)に結びつく

・「価値観を大切にする理想主義か、利益を追求する現実主義かのどちらかだ」 ⇒ 自社の社会的存在理由である「パーパス」を打ち立て、それを具現化することが、顧客をはじめとするステークホルダーの支持や信頼が獲得でき、中長期的にキャッシュフローを創出することが可能となる

財務も非財務も、見える資産も見えざる資産も

サステナビリティ経営を希求する企業は、事業を通じて環境や社会の課題解決に取り組み、ステークホルダーから信用・信頼を獲得し社会的評価を高め、持続的成長・中長期の企業価値向上を目指します。それを投資家側は、非財務情報として「ESG(Environment/Social/Governance)」で評価するということです。財務も、非財務も視野に入れることが、『将来の財務』につながるという文脈です。

現代経営においては、「見えるものより、見えないもの」「短期よりも中長期」に、より遥かな可能性が見出せます。今日良き財務が出たのは、これまでの「非財務」のおかげ。これからも良き財務を出し続けたいのであれば、「非財務」を重視しなければならないという認識が大切です。

企業にとって、ステークホルダーからの「信用・信頼」は競争力であり、きわめて重要な「無形資産(見えざる資産)」です。社会(ステークホルダー)との関係性の良し悪しは、中長期的にキャッシュフローを創出させる無形資産として企業価値向上の原動力となります。

これからの経営層やIR部門は、投資家に対して、資金を投じることが将来どのようなキャッシュフローへの影響を生むのかについて、「財務も非財務も」「有形資産も無形資産も」の観点から、立体的にストーリーが描けることが求められます。「ANDの才能」で、企業側の視点のみならず、株主をはじめとするステークホルダーの視点から語る能力を磨くことが重要です。

サステナビリティがビジネスにつながる、ビジネスをサステナビリティにつなげる

明日を担うビジネスパーソンは、「サステナビリティがビジネスにつながる」というクリエティティブで戦略的な視点と、「ビジネスをサステナビリティにつなげる」という志の高い気概を併せ持つことが大切です。「ANDの才能」を発揮し、時代が求める企業競争力の強化とより良い社会の両立を目指せば、「企業と社会の価値共創」「企業と社会の相乗発展」のメカニズムを築く道筋が見えてきます。

経済的価値と社会的価値、財務と非財務、有形資産と無形資産、現在(目先)と未来(中長期)の『二刀流』が、サステナビリティ経営に求められるセンスといえましょう。こうした考え方のもとに、さらに『自社らしさ』を醸し出し、競争優位を創り出す戦略メソッドが「サステナブル・ブランディング」です。

【細田悦弘 プロフィール】

中央大学大学院 戦略経営研究科フェロー、一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
CSR・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、 理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。

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