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細田悦弘の企業ブランディング 〈第12回〉 「山梨モデル」は、コロナ禍のブランド(のれん)投資

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新型コロナウイルスの感染対策は、今なお飲食店を中心として悩みの種です。そんな中、注目を集めているのが、「やまなしグリーン・ゾーン認証(山梨モデル)」です。老舗や人気店にとって感染対策は、ブランド(のれん)投資と捉えられます。

「やまなしグリーン・ゾーン認証」は、県のお墨付き

新型コロナウイルスの感染対策については、いまだに飲食店等が頭を悩ませています。 こうした状況下、各自治体で取り組みが進んでいるのが、感染防止対策を行っている飲食店を自治体が認証する「第三者認証制度」です。認証基準の必須項目とされているのは、「全席に目を覆う高さ以上のパーティション(アクリル板等)を設置するか、座席間を1m以上確保する」、「来店者に食事中以外のマスク着用を推奨する」、「2方向の窓を全開にし、30分ごとに5分程度の換気を行う」等とされています。政府からは各都道府県知事に対し、飲食店の感染防止対策を徹底するため、すでに一部の自治体で成果を上げている第三者認証制度を参考に導入するよう、事務連絡が出ています。

そんな中、「すでに一部の自治体で成果を上げている第三者認証」として注目を集めているのが、現地調査に基づいて独自に認証する「やまなしグリーン・ゾーン認証(山梨モデル)」です。山梨モデルは、現在各地で創設されている第三者認証制度の先駆けでもあり、目指すのは感染症対策と経済の両立です。よって、「休業要請をかけ、それに対して補償を出す」という一時的な対策ではなく、「持続的に感染防止対策に取り組み、経済活動も行う」という考え方です。昨年山梨県で創設され、飲食業や宿泊業などが申請できます。具体的には、県がワイナリーを含む飲食店や宿泊施設などに感染症対策の基準を示して、その基準に適合しているお店を実地調査の上、県の責任の下に『認証』を出すという仕組みです。言わば、感染症対策を講じている事業者に対し、県がお墨付きを与えるというもので、相対的に高い効果を示しています。

『お墨付き』を与えるということは、県が太鼓判を押すようなものです。県として要請だけを発するアプローチではなく、「何かあったら県も責任を取るので、一緒にやりましょう」という発想だそうです。「県も真剣に取り組んでいるから、皆さんもよろしくお願いします」という姿勢が伝わる効果があるとのことです。

最初はその厳しさに対して、「そんなもの、できるわけがないではないか」という声もあったそうですが、事業者側にとって、利用者の安全を徹底し信頼を確保することが、事業運営のためにも重要だという共通認識が広まってきました。今では、お店側の工夫とともに、県の実地調査で一緒に工夫してアドバイスをもらい、「これならできる」「やりやすい」という声も高まってきています。ただし、変異株が問題になっているいま、山梨県のグリーン・ゾーン認証施設においても変異株クラスターがから発生しました。変異株の感染力は従来以上であり、変異株にも対応できる基準のあり方が鋭意考案・更新されています。

認証とシグナリング効果

コロナ禍における飲食業等のブランディングに際しては、「感染対策」が礎(いしずえ)となります。実体(Credibility)の信頼感を「山梨モデル」で担保し、自社の得意技や個性を切り口にして持ち味を発揮してこそ、競争優位につながります。ブランドや暖簾(のれん)は、お店側にとっては顧客や社会への『約束』であり、グリーン・ゾーン認証のマークは『信頼の旗印』となります。感染対策の認証マーク(お墨付き)は、貴重なシグナリング効果を発揮します。「シグナリング効果(signaling effect)」とは、2001年に、ノーベル経済学賞を受賞したアメリカのマイケル・スペンス博士が提唱した理論で、市場で情報の非対称性(売り手と買い手の間に持つ情報に格差があること)が存在する場合に、売り手の実体や能力を買い手に「シグナル(信号)」を通じて伝えるということです。

一般の消費者にとって、きちんと感染対策をしている店と、そうでない店を専門的視点から鑑定・判断するというのは極めて困難なので、「認証マーク」が大事なシグナルとなります。それが貼ってあるお店は、「然るべき審査を経て、県のお墨付きが得られている」ということで、顧客からすれば、知覚品質(クオリティ)の高さを訴求する重要な選択基準となり得ます。

ちなみに、「トクホマーク」についても、厳しい審査を経て健康増進の面で高い価値を有することが実証された商品にしか与えられない、政府のお墨付きを意味します。ですので、商品選びの大事なシグナルとなることはよく知られています。たとえば、包装上に「おなかの調子を整える」というメッセージがあるだけのヨーグルトに対して、トクホマークが掲載されているものについては、おなかの調子を整える効果や価値の高さを示唆するシグナルを通じて、商品選択に影響を及ぼすといわれています。

認証マークは、「約束」の目印

「山梨モデル」の全国導入の動きがあります。東京・大阪等の大都市圏では、規模的にも格段と難易度が増すことが予想されます。山梨県においてもリソースには限りがあり、旅行会社等に外注していたりするそうです。とかく、外注すると調査が甘くなるのではないかという懸念がつきものですが、それは杞憂だそうです。なぜならば、旅行会社としても、県内の安全確保の可否が死活問題であり、本業に直接影響を及ぼすため真剣に取り組んでくれるのだそうです。「健全な社会が担保されてこそ、ビジネスも着実に前へ進む」というサステナビリティの観点からは、『同志』といえましょう。もし不用意な手加減を加えたりすれば、「認証マーク」の信用を傷つけてしまい、顧客や社会との『約束』を裏切ることになり、ブランドは毀損し元も子もなくなってしまいます。全国展開にあたっては、事業者側のブランドだけでなく、地域ブランドの維持・向上のためにも、自治体と事業者の高次で良好なコラボレーションが期待されます。

コロナ禍におけるサステナブル・ブランディング

コロナ禍におけるサステナブル・ブランディングは、安全確保という「約束」を守って持続可能性を担保し、信頼と共感のもと、「らしさ」で愛着を獲得することが要諦といえます。「山梨モデル」は、コロナ禍におけるブランド(のれん)投資と捉えることができましょう。

【細田悦弘 プロフィール】

中央大学大学院 戦略経営研究科フェロー、一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
CSR・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、 理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。

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