DXでつかむ!時代が求める新しい競争力! 細田悦弘の企業ブランディング 〈第10回〉
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NHK大河ドラマ「青天を衝け」が人気放映中です。
幕末の黒船でのペリー来航のシーンも迫力があり、日本が約200年続けた鎖国は終わりを告げ、歴史を変える重要な転換点となりました。
現代においても、DX革命が巻き起こり、ビジネス界のゲームチェンジの勢いが押し寄せているようです。
DXによるゲームチェンジ
NHK大河ドラマ・第60作「青天を衝け」が人気を集めています。
このドラマは、吉沢亮さん演じる「日本資本主義の父」とも称される渋沢栄一を主人公に、幕末から明治までがエネルギッシュに描かれます。
2024年からの新1万円札の顔として知られ、「論語とそろばん」で有名な偉人ですので、昨今特に関心の高い方が多いことでしょう。
その第3話では、アメリカ合衆国の軍人マシュー・ペリー提督率いる艦隊(黒船)来航しました。
そのインパクトは、今日の「DX」の到来によって、ゲームチェンジを引き起こしつつある状況のようです。
ゲームチェンジとは、ビジネス界の常識やいろいろな慣習を大きく変えるようなことを指します。革新的な技術で今まで不可能なことができてみたり、考えられないほどのコストダウンを実現することで、今までのビジネスのルールを抜本的に変えてしまうということです。過去の代表例では、インターネットの普及で我々は経験済みです。DXはさらに大きなうねりとして出現し、コロナ禍によって加速しているといえます。黒船もDXも、それを脅威としてのみ捉えるか、千載一遇の機会(opportunity)として挑むかによって、将来を左右することになるのは言うまでもありません。デジタル化が広く深く進展すれば、経済システムや産業のあり方、個人のライフスタイル、企業が目指すべき存在意義など、あらゆる面で世界観が変わることが想定されます。
「DX」は、企業を丸ごと変えるもの
企業が取り組むべきDXについて的確に表しているものとして、経済産業省が2018年12月に発表した「DX推進ガイドライン」が挙げられます。
それによると、DX(Digital Transformation)とは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされています。
この定義によれば、「データとデジタル技術を活用して」となっており、それらはあくまで「手段」として位置づけられています。
巷間では、DXはブームと言っても過言ではありませんが、単にAI、5G、IoTなどのデジタル技術を活用することが「目的」ではないということを意味します。
すなわち、それによって、「製品・サービスやビジネスモデル」にとどまらず。「業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土」までも変革するとしており、変革(Transformation)の対象は、『企業を丸ごと変えること』といえ、非常に広範な概念です。
すなわち「DX」の本質は、デジタルで企業を変革するのではなく、デジタルに適合した企業に丸ごと生まれ変わらせることを意味します。
そして定義の後半に、「競争上の優位を確立すること」とありますが、これまでの優位だったものが、劇的な変化によって、陳腐化したり、コモディティ化したりすることがあり得ます。
そこで、「Purpose」にあらためて立ち返り、時代に適合するために、DXを通じて「社会的存在意義」を発揮するという発想が求められます。
それにより、競争優位を維持し、さらに強化するという文脈です。このコンセプトは「サステナブル・ブランディング」のフレームに当てはめてみましょう。
DXを通じて、Purposeを実現する
企業ブランディングに、サステナビリティ要素で現代的意味づけを行い、時代が求める価値を赤“自社らしく”提供し、社内外のあらゆるステークホルダーと良好な関係性を構築していく。
これが、私の提唱する「サステナブル・ブランディング」のコンセプトです。
サステナブル・ブランディングは、「ビジネスと社会課題解決を両立させ、“らしさ”で競争優位を創り出す」戦略メソッドです。
下記の図が、「事業活動×社会課題×自社らしさ」の3要素を掛け合わせた「サステナブル・ブランディング」のフレームワークです。
これまでの「事業戦略」にDXでドライブをかけ、「社会課題(サステナビリティ要素)」を組込み、時代にふさわしいビジネスとして磨きをかけ、その上で、「自社らしさ」が触媒になることで「差異化」が実現し、競争力を発揮できます。
この3つの輪が重なった、真ん中の「★(レッド・スター)」こそが、時代が求める競争優位の源泉です。
このフレーム図は、それぞれの「輪の重なり」のポジションがポイントとなります。
◎青と緑の重なりのポジション:「事業活動(DX)」×「社会課題」 … CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)、DXによる社会課題解決
★3つの輪の重なり:「事業活動(DX)」×「社会課題」×「自社らしさ」 … サステナブル・ブランディング
DX×社会課題×自社らしさ=サステナブル・ブランディング。
この成功方程式を具現化することが、企業の社会的存在意義であるPurposeを実現し、「時代に選ばれ、次代にも輝き続ける会社」につながります。
とりわけ、「脱炭素」やコロナ禍による「非接触」のニーズは、グローバルレベルの社会課題であり、DXはまさに時代が求める新しい競争力といえます。
最後に、本稿で引用した大河ドラマのタイトルの「青天を衝け」は、渋沢栄一が詠んだ漢詩が由来だそうです。
若き渋沢が藍玉(あいだま:藍の葉を発酵・熟成させた染料である?〈すくも〉を突き固めて固形化したもの)を売るため信州に旅した時、険しい内山峡で詠んだ漢詩の一節「勢衝青天攘臂躋 気穿白雲唾手征(青空をつきさす勢いで肘をまくって登り、白雲をつきぬける気力で手に唾して進む)」からきているそうです。
時代の大きな変化やコロナ禍に翻弄される現代人にとって、逆境に負けることなく突き進んだ栄一の気概に、心打たれるのではないでしょうか。
【細田悦弘 プロフィール】
中央大学大学院 戦略経営研究科フェロー、一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
CSR・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、 理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。
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