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企業スローガンとは社会に訴えかける言葉 企業理念体系概説

ブランディング

「ブランディングnote」の企業理念体系概説シリーズ、今回のテーマは「スローガン」です。
「その3」で解説したスピリットと同じく、スローガンはMVVを体現する具体的な「表現ツール」です。語源はスコットランド高地の軍隊があげる「鬨(とき)の声」に求められ、転じてある主張を簡潔に伝えるための「呼びかけの言葉」として使われるようになりました。
スローガンが「呼びかけの言葉」である以上、誰が(主張する側)、誰に対して(対象とする人々)発するのか、明らかでなければなりません。企業スローガンの場合は主に、その企業が顧客社会に対して訴えかける言葉である場合がほとんどです。

スローガンが果たす役割

スローガンが果たす役割は、主に4つあります。
1. 発信者の存在を知らしめ、気付かせる (認知)
2. 主張する内容に注目してもらう (興味、関心の喚起)
3. 主張に共感してもらう (欲望、共感の訴求)
4. 表現と発信者を結びつけて覚えてもらう (記憶の形成)

呼びかけの主体者が世にあまり知られていない場合、まず声をあげて存在を認知してもらわなくてはなりません。またよく知られている存在だった場合でも、その主張に耳を傾けてもらうために「声高に何か言っている」ことを知ってもらう必要があります。
次の段階ではその内容が問題とされ、スローガンに触れた人々はそれが注目に値する内容なのか、共感できるものなのか、を評価します。自分にとって価値がある、という評価が得られれば、そのスローガンは誰が発信しているのかという情報とセットで覚えられ、商品・サービスの購入など具体的な行動の契機となります。

このスローガンが果たす4つの役割は、実は広告の世界で古くから使われているAIDMAモデルのうちの、1〜4までに相当します。

もちろん具体的なアクションを起こしてもらうには、スローガン以外の商品力やブランドパワー、マーケティング、リレーションが必要です。しかしスローガンという端的な表現によるコミュニケーションは、1〜4のプロセスを確実に効率化します。さらにすぐれたスローガンは、「どんな発信者なんだろう」と発信元に対する探究を促し、消費者との結びつきをより強固なものにするポテンシャルを持っています。

スローガンの事例

有名なスローガンは、多くの人の印象に残り誰もが知るものとなります。NIKEの「Just Do It」やマクドナルドの「I'm Lovin'It」などはその好例と言えるでしょう。わが国では「あなたと、コンビに、ファミリーマート」や「ココロも満タンに コスモ石油」が有名です。長く用いられるコーポレート・スローガンは、「タグライン」や「コーポレート・ステートメント」とも呼ばれ人々に親しまれます。

企業名想起率は「あなたと、コンビに、ファミリーマート」が2年連続首位 評価が高まった企業メッセージの要素に、「食」「パーパス」「サステナブル」 | 企業メッセージ調査2021 | 日経BPコンサルティング (nikkeibp.co.jp)

冒頭でスローガンの起源は鬨の声、と説明しました。現代でこれに相当するものがあるとすれば、それは政党のスローガンです。政党は「選挙で1票でも多くの票を獲得する」という非常に具体的な数値目標を設定し、それを実現するためにAIDMAを注意深く、総合的に設計します。
選挙における言語コミュニケーションの中心となるのが政党スローガンであり、MVVに相当する政治信条や政策、マニフェストを端的に伝えるスローガンの表現を、各党は十分吟味し、磨き上げてきます。

2021年衆議院議員選挙時の各党スローガン(キャッチフレーズ)
参考:早稲田大学マニフェスト研究所 2021総選挙公約比較表(全部) (maniken.jp)

スローガンをどう作る

スローガンを作るには、決まったセオリー、テンプレートのようなものはありません。なぜなら、それを用いようとする企業、あるいは商品・サービスが置かれた状況は、すべて異なるからです。
主体者の強み、弱み、機会となる要因、脅威となる要因、取り扱う商品・サービスの領域と種類、コミュニケーションの対象者、リレーションのチャネル、主体者側の人的・物的リソースの規模などといった状況にあわせて「誰に対し、どんな内容を訴求するのが最も効果的か」が決まります。
その中心にあるのは、理念要素たるMVVであり、競合にない独自のコア・コンピタンスです。
外部の協力会社(広告代理店、コンサルティング会社、デザイン会社など)の支援を得てスローガン開発を進める場合も少なくありませんが、このケースでも「丸投げ」は絶対にうまくいきません。外から見ただけでは、強みや特性の本質がわからないからです。外部の力を借りるとすれば、理念的背景や独自の強みの中から「伝えたい」内容を抽出する際のファシリテーション支援や、言語表現を磨き上げるクリエイティブ、そして伝達経路を設計するリレーションの部分です。

基本的には
■誰に対し
■ どのような内容を伝え
■ どんな印象を抱いてもらいたいのか
ということについて、徹底的に考えることが大切です。

ライタープロフィール

神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長

創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。

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