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採用ブランディングの実例 -「チームワークあふれる社会を創る」 サイボウズの取り組み-

ブランディング

「採用ブランディング」は新卒の学生を初めとする求職者層を主なターゲットとし、より多くの望ましい人材を安定的に確保することを目的として自社のブランドを確立し、ターゲットに印象付けるブランディング戦略です。
とはいっても、コーポレートブランディングとまったく別立てで人事や採用に特化したブランディングを行うわけではありません。むしろ企業のあるべき姿、ビジョンや価値を伝えていくコーポレートブランディングの一翼を、採用の側面から担っていく活動と位置づけられます。

企業の規模や特性、業種・業態によってアプローチしたい人材像やコミュニケーション・メディアは多少変わってきますが「伝えたいメッセージを明確にし、伝えたい人々に的確に届け、望ましい印象を形成してもらう」というその目的は同じです。
この記事では、そんな採用ブランディングの成功事例として「サイボウズ株式会社」の取り組みを紹介します。

「チームワークあふれる社会を創る」 サイボウズ

1997年に創業したサイボウズは、キントーンやサイボウズofficeといったグループウェアサービスを提供する会社です。
同社の採用専用webサイトでは、そのトップコンテンツとして「採用において大切にしているカルチャーフィット」という概念を示しています。
採用情報 | サイボウズ株式会社 (cybozu.co.jp)

同社は「チームワークあふれる社会を創る」というPurpose(存在意義)と、「理想への共感」「多様な個性を重視」「公明正大」「自立と議論」の4つからなるCulture(文化)を掲げています。これらに共感し、チームの一員として貢献できるスキルを持っていること、すなわちカルチャーフィットする人材を求める、とはっきり宣言しているのです。

サイボウズのサービスは、チームワーク確立のための環境を創造することです。当然、そこで働く従業員自身のチームワークパワーもまた、最大限に引き出されなくてはなりません。しかし、実は創業から7年経った2005年当時、同社の離職率はなんと28%にのぼり、3〜4人に1人が辞めていくという状況になっていました。社内では当時を振り返って「毎月送別会の時代」と呼んでいるそうです。
この事態を憂えた経営陣は社員一人ひとりにヒアリングを行い、働き方に関するニーズを掘り起こして解決策を模索しました。
「チームワークをサポートする会社」が、自らのチームワーク改革に乗り出したわけです。

働き方を革新する サイボウズCulture

この結果が実を結び、サイボウズでは数々の「働き方を革新する」仕組みが誕生しました。これらはサイボウズCultureを形成する大きな要素となっています。例を挙げると、
・ 最長6年間の育児・介護休暇制度
・ 働き方宣言制度…ライフステージの変化に合わせて自身の働き方を自由に記述するスタイルで宣言し、実行する
・ ウルトラワーク(在宅勤務制度)
・ 育自分休暇制度…離職して6年は復帰を可能とする仕組み
このほか副(複)業の許可、他部署への体験入部制、子連れ出勤制度といった、多くの個性的な人事制度が導入されています。
ワークスタイル | サイボウズ株式会社 (cybozu.co.jp)

2014年には「働くママたちによりそうことを。サイボウズは応援します」という動画広告が162万回再生(YouTube広告からの誘導なし)の大ヒットを記録。これがマスメディアを通じて話題となり、さらに反響を拡大させました。

オウンドメディア「サイボウズ式」による情報発信も始まり、同社はグループウェアという「製品」を売るコミュニケーションから脱却し、「チームワークを支援する」ストーリーや文脈、コンテキストを付与して、それらと共に「サイボウズ」の名を認識してもらうことをコーポレートブランディングの根幹に据えたのです。

最低の離職率を記録した2005年頃は売上高が40億円強と頭打ちが続いていましたが、2020年には160億円となり、前年比128%を記録しています。 最近の離職率は4%前後。しかも「さよならではなく卒業」と呼ばれ、退職はよりアクティブなイメージでとらえられています。
一方、中途応募者数は以前に比べ3倍に増加しているそうです。

外部へのブランディングがインナーに有効に働いた

同社の人事部が内定者にアンケートを取り、サイボウズに応募したきっかけを問うたところ、
1位 サイボウズ関連書籍
2位 web広報
3位 オウンドメディア 「サイボウズ式」
という結果が得られたそうです。

前述したように、サイボウズではコーポレートブランディングにあたり、個別の製品ではなくサイボウズという企業の社会課題に取り組む姿勢を訴求し、単なるグループウェアのメーカーではないとの視点で認知向上を図ってきました。働くママを応援する動画広告や、経営陣らによる書籍出版、web広報やオウンドメディア「サイボウズ式」の導入はその一環です。

直接採用ターゲットに向けたわけではないこれらのコミュニケーションが、実はまわりまわって「企業の姿勢を伝える」採用ブランディングとして有効に機能していたのです。

サイボウズの社内でも、「外向けのコーポレートブランディングが最良のインナーブランディングになった」と認識されています。
「自分たちの価値はどこにあるのか」を突き詰めて考え、「それはチームワークへの貢献だ」というMissionの発見にたどり着いたからこそすべてのコミュニケーション活動がフォーカスされ、採用にも効果を発揮したのです。
社会課題への取り組み | サイボウズ株式会社 (cybozu.co.jp)

Great Place to Work Institute Japanが実施した『2021年版・日本における「働きがいのある会社」ランキング(中規模部門 従業員100〜999人)』において、サイボウズは3年連続で2位を獲得しました。2014年以来、毎年ランクインしています。
受賞歴 | サイボウズ株式会社 (cybozu.co.jp)

「100人いたら100通りの働き方があってよい」という理念のもと、2012年には働く時間と場所の制約を取り払い、副業可、独立可という方針を掲げました。また2020年には次期取締役を社内公募し、2021年の定時株主総会で新卒1年目の候補者を含む計17名を選出して話題となりました。この企画に際しては広報と人事本部が連携し、半年から1年の時間をかけて社内外にじっくりとコミュニケーションを図り、その意義と意図の理解を促していきました。

サイボウズの採用ブランディングはしっかりと組み立てられたコーポレートブランディングを背景に、人事や広報など各部署が連携しつつ、その理念を体現するものとして直実に計画・実践され、成果をあげているのです。

「チームワークあふれる社会を創る」という理想を掲げる企業だからこそ、自分たちのチームワークをデザインする姿を見せることが、説得力のあるリクルート戦略になったといってよいでしょう。

ライタープロフィール

神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長

創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。

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