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ブランドロイヤリティ-ブランドは誰のものか

ブランディング

ロイヤリティ(ロイヤルティ、と表記する場合もあります。どちらも間違いではありませんが、このコラムでは「ロイヤリティ」に統一して用います)という言葉があります。ブランディングの世界でも「ブランドロイヤリティ」という言い方が普通に流通しています。
ところで皆さんは、この言葉に対して「ちょっと変だな」と思われたことはありませんか?

ご注意!「王様に対する忠誠心」ではありません

ロイヤリティは、よく「忠誠心、忠誠度」と和訳されます。いつも買うミルクが決まっていて、他のブランドが安く売られていても気にせず購入する人は、そのミルクに対するブランドロイヤリティが高い、といった使い方がなされます。しかし、その言い方に違和感を覚える方が、少なからずおられるのではないでしょうか。

購入する人はなるほど愛好者ではありますが、別にそのミルクに忠誠を誓っているわけではありません。忠誠心という概念からは、どうしてもそのミルクを外敵から守る騎士(ナイト)の像がイメージとして浮かんでしまいます。お金を払って買っている消費者の側が、どうしてブランドに忠誠心を持たなくてはならないのでしょうか。

実は、ここには二重の誤解があるのです。ロイヤルという語には、ロイヤルファミリー、ロイヤルコペンハーゲン(デンマーク王室御用達窯)のように「王族・王権」のイメージが付随します。このRoyalから派生した言葉として「Royalty」がありますが、この場合のロイヤリティはなんと忠誠心を意味しないのです。

Royaltyは「フランチャイズのロイヤリティを払う」「ロイヤリティとして何%を徴収」というときの、「使用料、特許権」を指します。Royalすなわち「王権」から来ているものと思われますが、王様と忠誠心という関係がしっくり来るので、両者が結びつけられて王に対する忠誠のごとく、ブランドに忠実な消費者の像がなんとなくイメージされてしまうのです。

しかし、王様と忠誠心のロイヤリティは、まったく成り立ちが違う別の言葉です。王様は【Royal】でRから始まり、忠誠心の方は【Loyalty】と、Lで始まる単語です。

「忠誠度」でなければ、では何なのか

なるほど、RoyaltyとLoyaltyが別物であることはわかった。しかし、王様と無関係であるにしてもブランドロイヤリティがブランドに対する忠誠心を意味する、ということに変わりはなかろう、とおっしゃるかもしれません。これは、Loyaltyを「忠誠」という概念でとらえることから起こるものです。

確かに、英語の辞書やこの語が出てくる文章を読むと、忠誠という概念は間違っていないように思われます。けれども例えば、Loyalty among family membersのような用法もあります。これは家族同士の忠誠心、というよりは家族の間の絆・結びつき、というニュアンスが強いように思えます。またお得意様カードの「Customer Loyalty Card」という英訳には、お客様に対する店舗やブランド側からの特別待遇感を感じさせます。
「王様」対「一般民衆」という誤った図式が前提にあると、Loyaltyの一方が主、もう一方が従であるかのような関係性が生じてしまいます。けれども、家族間の絆がフラットなものであるのと同様、ブランドと顧客の関係は本来並列、平等の存在です。ですからブランドロイヤルティといった場合、その訳語は「ブランドに対する忠誠心」ではなく、「ブランドへの愛着、支持、帰属意識」とするのが正しいのではないでしょうか。

いつも必ず決まったミルクを購入する顧客は、愛着を持ってそのブランドを支持する。ミルクのブランドは、指名で買ってくれるお客さまに敬意と愛情を注ぎ、信頼の維持に努める。この理想的な関係が持続する状態を「ブランドロイヤリティが高い」と表現するのが、正しいあり方だと言えます。

カンザス計画の失敗

高いブランドロイヤリティは、ブランドホルダーであるコーポレートのコントロールを超えるパワーを、ブランドに与えることができます。どういう意味か、次の例がそれを物語っています。

1985年、北米のコカ・コーラ社はアメリカとカナダにおいて、同社の象徴的存在であるコカ・コーラのテイストを変更する、通称「カンザス計画」に踏み切りました。「ニュー・コーク」と呼ばれるその味は、事前のテストマーケティングでは大きな評価を勝ち取っていました。

当時、ライバルのペプシが「ペプシ・チャレンジ」と称するブラインドテスト・キャンペーンを展開しており、ラベルを隠して飲み比べるとペプシの支持が圧倒的だった、と宣伝していたのです。当時の経営陣はペプシの影響はない、と否定しましたが、なんとニュー・コークは新たなラインナップに加わるのではなく、これまでのコークに代わる新商品として大々的にデビュー、旧来のコークは否定され、復活は「未来永劫にない」と発表されました。

これが支持者、すなわち高いブランドロイヤリティを持つ集団から、猛反発を食らうことになります。コカ・コーラ社には抗議の電話や手紙が殺到し、不買運動も起こってニュー・コークはまったく売れなくなりました。味が多少おいしくなった、現代的になったことよりも「我々の知るあの想いの詰まったコーラ」が別のものに変わってしまった嘆きが、経営陣の予想をはるかに超えていたのです。

未来永劫復活しないはずだった旧コーラは三か月ほどしてコーク・クラシックの名のもとに市場に再登場し、皮肉なことにニュー・コークの方は短命に終わりました。

結果としてコカ・コーラは人々に「もう一度思い出してもらう」ことに成功、ペプシを超える支持を取り戻します。そのため、「カンザス計画は失敗ではなく、大成功事例だ」と見る研究者もいますが、皆さんはいかがお考えでしょうか。いずれにせよ、ブランドロイヤリティがブランドに大きな力を付与する原動力であることは間違いありません。そしてブランドとは、ブランドホルダーとその支持者との間で共有するものなのだということが、この事例から理解できると思います。

ライタープロフィール

神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長

創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。

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