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CSRとCSVが注目される時代

SDGs

最近は、さまざまな企業でこの言葉が飛び交っている。CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)とCSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)だ。このふたつのキーワードは対比の形で表現されることも多い。

一般的にCSRは、企業戦略とは別に位置づけられており、本業とは別予算で行われるのに対し、CSVは企業の競争力に結びつく利益創出の源泉とされているのが大きな違いだ。 このような時代の認識とCSRとCSVが対比によって語られていたことから、CSRの延長線上にCSVという概念があると捉えられる傾向にあるが、それではCSVの本質を見誤ることもあるので注意したい。

CSVはこれからのグローバルな競争社会において、市場の激しい変化にそれほど巻き込まれることなく、市場の創造を自ら行っていくことのできるイノベーションを起こすことのできる戦略的な活動といえるだろう。 参照 『CSV時代のイノベーション戦略』藤井剛

グローバル競争の激化の末に見えてきた新たな戦い方

現在、多くの日本企業は従来型の戦い方から脱却できず、経営環境の激変に翻弄されている。市場の混沌に飲み込まれつつある状況だ。

特に日本を代表するエレクトロニクス産業を例にとってみると、DRAMメモリーから液晶パネル、DVDプレイヤー、カーナビ、太陽光発電パネルなど、発売当初は、高い技術力で圧倒的なシェアを誇っていた製品が、数年で韓国や中国といった新興国企業から技術のキャッチアップと低価格攻勢にあい、短期間のうちに市場シェアを失うという事態が続いている。 これは製品のライフサイクルの短命化が進んでいることから、機能改善競争を行っている日本企業が新商品を出しても、投資回収前に競合にシェアを奪われてしまっているのである。経済産業省の分析によると、日本のエレクトロニクス企業の研究開発費と営業利益の関係は逆相関に陥っているという。つまり「研究開発をすればするほど儲からない」という状況なのだ。

それではどうすれば良いのか。ヒントはウォールマートやGE、ネスレなどのグローバル企業にある。これらのCSV先進企業は、製品の機能や品質、価格の訴求に加え、製品の普及を通じて、社会の課題解決を実現するという“大義”を掲げているのだ。その魅力を訴えることで、顧客だけでなく政府機関やNGO、社会を構成する多様な人々を取り込むとともに、その実現のためにビジネスモデルやルールを提唱して、新たな社会秩序を構築することに挑んでいる。

これらにより、競合企業の機能や品質、価格による戦いを薄め、構造的な競争優位な枠組みを作り出そうとしている。このような戦い方は日本も見習うべきところがあるだろう。 参照 『CSV時代のイノベーション戦略』藤井剛

慈善事業の観点から企業の役割を考える

今回は企業のミッションとその達成方法を改めて考えることで、人々のニーズに応える重要性ついて解説していこう。

企業の社会貢献で生まれるレボリューション

矛盾しているように感じるかもしれないが、営利目的の企業のミッションは利益をあげることではない。
あるミッションを達成できたときに、初めて利益が生まれるのだ。
言いかえれば、企業の目的は人々のニーズをつかみ、満たすことで社会に貢献することで、それができて初めて投資家に利益を還元できるのだ。

我々は、社会の貢献と企業利益を切り離して考えがちである。
そして、利益をあげることが善行でもあるかのように思ってはいないだろうか。

私が思うに、彼らは自分自身を短絡的に売り飛ばしているのではないか。
私の属する製薬会社Lillyは、慈善事業に深く関わっている。
しかし最も重要な社会貢献は、ビジネスにおいてである。
新薬を発見、開発し製造することで、多くの患者の役に立っている。

幸運にも企業が社会貢献に力を注ぐことで、より広い視野で人々のニーズを捉えるという真のレボリューションが生まれている。

同列慈善事業とは

伝統的な慈善行為とは、単純にお金を渡すものだった。
企業の利益の一部を提供するだけであり、一時しのぎと揶揄されたものである。
しかしそのような行為には限界がある。
より複雑な問題を解決するためには、お金以上のものが必要なのだ。
そして寄付だけでは、持続可能な戦略とはいえないし、企業の利益にも社会貢献にもならなかったのだ。

そこで我々が必要と感じたのは、慈善事業の進化である。
寄付だけではなく、企業のミッションと同時並行で行える真の問題解決に繋がる慈善事業はできないかと。

この濃密なエンゲージメントをLillyでは、“同列慈善事業(aligned philanthropy)”と呼んでいる。
企業のコアビジネスと同列で行う慈善事業という意味だ。同列慈善事業ではビジネスの経験や優秀な人材などの豊富なリソースを活用できるので、複雑な問題にも対応できる。

我社の多剤耐性結核菌(MDR-TB)に対する取り組みが、同列慈善事業を示す良い例だ。数十年前、菌から防衛する最後の砦として2つの抗生物質を開発した。
そして2003年、我々は薬の商標、そして製造技術とノウハウを病気に苦しむ国々のローカル工場に移管することに成功した。
最終目的は、高品質の薬をグローバルに、そして持続的に供給可能にするという、人々の強いニーズに応えることだった。

この商標と技術移管は、LillyのMDR-TB パートナーシップの重要な要素だった。
パートナーシップを結んだ国際組織や各国のTBプログラム、ローカルのNGOは、MDR-TBに感染した人の教育やトレーニング、医療改善を約束したのだ。

このようなアプローチは、Harvard Business Reviewに掲載され広く読まれている、Michael Porter氏とMark Kramer氏の“Creating Shared Value”(共有価値の創造)に反映されている。

人々のニーズに応えるという企業の役割の基本に立ち返り、慈善事業の常識を超えたとき、レボリューションは生まれるのかもしれない。

著:John Lechleiter

ライタープロフィール

神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長

創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。

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